ネストボールvsスーパーボール問題 ~話題のアンケート解説~
posted by ししゃも
ネストスーパー問題
先日、Twitterでこんなアンケートが話題になった。
「ネストボールとスーパーボールどちらを使うか?」というこの問題。上級者の間でも意見が分かれ、多くの意見が飛び交った。
なぜここまで意見が分かれるのか? 正しい答えを出すためには何を考慮する必要があるのか?
今回はこの問題について解説をする。
「使わない」という選択肢がある
この問題について多くの人が勘違いをしていることがある。それは「ネストボールを使ってからスーパーボールを使う」「スーパーボールを使ってからネストボールを使う」の2択問題であるという勘違いだ。
実際には上記に加えて「ボールを使わずに温存する」という選択肢があり、今回の状況ではかなり有力な行動でもある。これこそが、トッププレイヤーの間でも意見が分かれる理由なのだ。
上記のことを踏まえ、正しい選択肢を導くための考察を進めていく。
前提条件
この問題に答えるためには詳細な条件を検討することが不可欠である。まずは出題者から提示された条件を確認しよう。
新潟優勝レシピとのことなので、環境も新潟大会を想定するべきだろう。ウルトラシャイニーとブイズデッキの発売後、タッグボルトの発売直前という前提で話を進める。
盤面と手札は最初のツイートから以下の通り。
これらの条件で、最適なプレイは何なのかを検討する。
プレイの目標
予め断っておくが、今回の記事で完全な回答を示すことはしない。考慮すべきことがあまりに多いので、全てを考察しきることが不可能だからだ。なので今回は回答を導くための考え方を示すに留める。
その考え方を全て吸収するだけでも大変だが、「こういう考え方があるらしい」ということを知っているだけでもその後の経験値の質が上がってくる。経験値の質が上がることで、本番でより正しい答えを出すための「勘」が養われる。全てを理解しようとするのではなく、「勘」を養うのだという意識で読んでほしい。
目標
何をもってこの問題の「正解」とするのか。それは「最終的な勝率を最も高くするプレイ」だと定義する。
つまり、このターンだけでなく次のターン、その次のターンに何が起こり、どうすれば勝ちになるのかを考える必要があるということだ。
相手デッキの予想
まずは相手のデッキが何であるかを予想する。それによって、このターンに行うべきプレイが変わってくるからだ。
相手はカプ・テテフGXでスタートしているという情報以外には何も分かっていないが、それだけでもある程度の予想を立てることはできる。まず当然だが「カプ・テテフGXが採用されるデッキである」ということ、そして「たねポケモンの枚数からみたカプ・テテフGXの枚数が少なくない」可能性が高いということだ。つまりカプ・テテフGXが複数枚採用されていて、他のたねポケモンもそこまで多くはないデッキかもしれないという予想が立てられる。
続いて「この環境で多いデッキは何か」を考える。新潟大会の上位64に入ったデッキは以下の海外サイトで公開されているので、ある程度の参考になるだろう。
http://limitlesstcg.com/tournaments/?id=142
ジラーチサンダー、ルガルガンゾロアーク、ズガドーンアーゴヨン、レックウザクワガノン等が多く見られる。
しかしこの中で最も多いジラーチサンダー系統については、「カプ・テテフGXが入っていない」「カプ・テテフGXが1枚しか入っていない」デッキも多い。そして他のたねポケモンもたくさん入っているので、ジラーチサンダー系統のデッキである可能性は低そうだ。
よって、「環境に多いデッキのうちジラーチサンダー以外のものである可能性が高い」というところまで予想ができる(ただし1回戦目であればトップ64よりも多様なデッキが存在するこは考慮する必要がある)。
相手の1ターン目と自分の2ターン目
続いて自分自身の目指すべきプレイを考える。まずは先行1ターン目に何をするべきなのか。ルガルガンゾロアークの先行1ターン目について、一般的にはたねポケモンをたくさん並べるのがいいと言われている。それ自体は正しいが、「何のためにたねポケモンを並べるのか?」という点を忘れてはならない。最初に述べたように、ゲームに勝利する確率を上げることが目標である。たねポケモンを並べておくと次のターンに進化することができ、とりひきでカードを引ける枚数が増えて選択肢を広げることができるというのが重要な点なのだ。つまり、先行1ターン目はそれ以降のターンのためにある。このターンに何をするかを考えるには、以降のターンで何をしたいかを考えなければならない。
2ターン目に何をしたいかを考えるには、もちろん相手が後攻1ターン目に何をするかを予想する必要がある。
例えば相手がルガルガンゾロアークであれば、ベンチにゾロアやイワンコを並べて終わりというのが予想される行動だろう。ズガドーンアーゴヨンであればズガドーンとベベノムを出し、ズガドーンにエネを貼って終わり。レックウザクワガノンであればレックウザとアゴジムシを出して終わりか、もしかしたら前のカプ・テテフGXにエネを貼って逃がし、テンペストGXを使ってくるかもしれない。そして共通して重要なのは、前のゾロアを倒されるパターンは少ないということだ。
では上記の動きに対応するため、自分の先行2ターン目には何を目指すべきか。手札を見るとゾロアークGXとダブル無色エネルギーがあり、ライオットビートを使えることは確定している。攻撃対象として選べるのは前のカプ・テテフGX、もしくは後ろのたねポケモン。対レックウザであればレックウザGXが前に出ているパターンもあり得る。
これらのポケモンに対してライオットビートでどれだけのダメージを与えればいいか。攻撃するのがカプ・テテフGXやレックウザGXであれば170ダメージ、もしくは180ダメージを出して1発で倒すのが理想である。しかしそのためには「ベンチを全て並べる」+「ククイ博士を使う」(+「喰いつくされた原野を出す」)ことが必要で少々難易度が高い。
そうなると60ダメージが1つの有力なラインだ。60ダメージを与えておけば相手のHPは残り110もしくは120。その次のターンにベンチを全て並べれば倒すことができる。
後ろのゾロア、イワンコ、ベベノム、アゴジムシを狙うパターンの場合は60もしくは70ダメージで倒すことができる。対ウルネクでマーイーカを狙う場合や対ロストマーチでハネッコを狙う場合も60もしくは40ダメージで事足りる。つまり、2ターン目時点ではベンチに2~3匹のポケモンがいれば目標を達成できるということだ。
1ターン目に使うボール
ボールの使い方に絞ると1ターン目の選択肢は5つ。
①ボールを使わない
②ネストだけ使う
③スーパーだけ使う
④ネスト→スーパーの順に使う
⑤スーパー→ネストの順に使う
ネストボールとスーパーボールの特徴としては、「ネストボールは好きなたねポケモンを出せる」「スーパーボールは進化ポケモンを手札に加えたりカプ・テテフGXの特性を使うこともできる」ということが挙げられる。
それぞれの選択肢について、メリットとデメリットを見ていこう。
①ボールを使わない
ボールを使わないメリットは、相手の動きと自分の2ターン目のドローを見てから全ての行動を決められるということだ。ただし、具体的にどんな相手に対してどのように持ってくるポケモンを変えるのかは想定する必要がある。
また、2ターン目にとりひきをしてからネストボール、スーパーボールを使うことでたねポケモンを多く並べられる可能性を最も高くすることができるのもメリットの1つである。ボールを使う前にとりひきをすることで、とりひきでたねポケモンを引く可能性を高めることができる。
デメリットはもし前のゾロアが倒されたとしたら負けになっていまうこと。ダブル無色エネルギー+ククイ博士でのエナジードライブや、マッシブーン+ポケモンいれかえなどのパターンが考えられる。また、ボールを使ってゾロアを出すパターンと比べてとりひきの回数が減ってしまうのも大きなデメリットである。
②ネストだけ使う
スーパーボールを温存するパターン。メリットは、カプ・テテフGXから任意のサポートを使える可能性を最も高めることができる点。2ターン目に2匹のゾロアークGXに進化し、とりひきを2回使ってからスーパーボールを使用する。他のすべての選択肢と比べカプ・テテフGXに触れる可能性が1番高くなるプレイである。後攻1ターン目の相手の行動に合わせてグズマやジャッジマン等のサポートを使えるのは試合に大きな影響を与えうる。
とりひきでハイパーボールを引いた場合に、スーパーボールをトラッシュする択を残しておけるのもメリットの1つ。
デメリットは1ターン目に両方のボールを使った場合と比べて盤面が弱くなりやすい点。例えば1ターン目のスーパーボールでゾロアが当たった、あるいはカプ・テテフGXからサポートを使いゾロアを並べた場合と比べてとりひきの回数が1回減る。これは3ターン目以降の動きに影響を与えてくる可能性がある。
③スーパーだけ使う
ネストボールを温存するパターン。これはスーパーボールで何が当たったかによって大きく意味が変わってくるので、「スーパー→ネスト」プランの派生形と考えるべきだろう。最初にスーパーを使い、当たったカードによってその後の動きを変えるということだ。例えばスーパーでゾロアが当たったときネストを温存して2ターン目を迎えれば、相手の動きととりひきで引いたカードに合わせてネストで持ってくるポケモンを変えることができる。つまり3ターン目に任意の進化ポケモンを使いやすくなるのがネストボールを温存するメリットである。
デメリットはネストだけ使用したパターンと同じように、2つのボールを使った場合と比べて盤面が弱くなりやすい点が挙げられる。
④ネスト→スーパーの順に使う
ここからは両方のボールを使うパターン。ネストを先に使うメリットとして大きいのは1ターン目にカプ・テテフGXを使える可能性が最も大きくなるという点だろう。ネストで1枚分たねポケモンを山札から減らしておくことで、スーパーボールでカプ・テテフGXが当たる可能性を上げることができる。現状自分の手札にサポートは無いので、これは大きなメリットになり得る。
また、先に山札を確認して何がサイドに落ちているか把握してからスーパーボールを使えるのもメリットだ。ただし、サイド落ちによってどのように持ってくるポケモンを変えるのかは想定しておく必要がある。
デメリットはネストボールでポケモンを減らすことで、スーパーボールを使った際にそのポケモンが当たる確率を下げている点。ネストでゾロアを持ってきたとすると、スーパーで3枚目のゾロアが当たる確率は明確に下がる。
⑤スーパー→ネストの順に使う
スーパーを先に使うメリットは、1ターン目にたねポケモンを3枚並べられる確率が最も高くなるという点。山札にたねポケモンが多いほどスーパーでたねポケモンが当たる確率は上がる。
また、スーパーで当たったカードによってネストで持ってくるカードを変えられるのもメリットになり得る。例えばスーパーでルガルガンGXが当たったなら、ネストでゾロアではなくイワンコやメタモン◇を持ってくるという択を取ることができる。
ネストを先に使った場合と比べたデメリットはカプ・テテフGXに触れる可能性が少し下がるという点。
確率計算
上記の選択肢からどうやって正しいものを選べばいいのか?
制限時間のある本番では経験からくる「勘」で決めることになるが、ここでは④と⑤の比較を例に、確率計算をプレイを決める一助とする方法について説明する。
ネストによるサイド落ち確認
まずはネストボールを先に使った場合のメリットとして挙げた「サイド落ち確認ができる」という点について考察する。
スーパーボールを使う前に確認しておきたいのは、例えば進化ラインに関するサイド落ちである。ゾロアークGXは4枚手札にあるが、その他のポケモンについてはどうなっているか分からない。この状態でスーパーボールを使うと判断を誤ってしまう可能性がある。そこでどういった場合が実際に困るのかを考える。
「判断を誤る」ということなので、問題となるのはスーパーボールで複数のポケモンが見えたパターンだ。例えばスーパーでイワンコとニューラが見えてイワンコを持ってきたが、ネストで山を見るとルガルガンGXはサイド落ちしており1枚も無かった、というときが「ネストを先に使っておけばよかった」パターンと言える。
では、上記の状況はどのくらいの確率で発生するのだろうか。イワンコ+ゾロアが見えた場合は、手札にゾロアークGXがある以上ゾロアを先に置き、ネストボールでルガルガンGXの有無を見てからイワンコを置けばいい。よって事象の発生条件を以下のように定める。
A. スーパーでイワンコに加え、ゾロアとルガルガンGX以外のポケモンが見える
B. ルガルガンGXが2枚サイド落ちしている
この2点が同時に発生するのが「ネストを先に使っておけばよかった」パターンである。
このデッキに入っているイワンコの枚数は2枚。ゾロア・ゾロアークGX・イワンコ・ルガルガンGX・メタモン◇を除いたポケモンの枚数は7枚。そして盤面に見えている8枚を除いた山札の枚数は52枚。よってAの確率は以下の計算式で求められる。
どちらかのイワンコが取り出される組み合わせ × ポケモン8枚のうちどれかが取り出される組み合わせ × ポケモン以外の残り5枚の組み合わせ ÷ 7枚全ての組み合わせ
₂C₁ × ₇C₁ × ₃₇C₅ ÷ ₅₂C₇ = 2 × 7 × 435897 ÷ 133784560 = 約4.56%
続いてBの確率。こちらは以下の計算式で求められる。
2 ÷ 52 × 1 ÷ 51 × ₆C₂ = 約1.13%
よって、AとBが同時に起こるのは約0.05%である。
Bが起こっているときはAが少し起こりやすいとかポケモンが3枚以上見えるパターンを考慮していない等の抜けはあるが、大まかに0.1%以下と考えて間違いない。他にもニューラが見えてマニューラがサイド落ちしているパターン等もあるが、こちらも1%以下の発生率である。
よって、「ネストボールを先に使うことでサイド落ちを確認できることがメリットになるパターンの発生率は1%以下」という結論となる。
持ってきたいポケモンと勝率
続いてネストとスーパー、それぞれのボールで持ってきたいポケモンを考える。ゾロアークGXが4枚手札にあるもののサポートは無い、次の相手のターンに前のゾロアが倒されることは考えづらいという状況。
今回は仮に、ネストで持ってくるポケモンはゾロアで確定。スーパーで持ってくるポケモンは4パターンに分けて考えることとする。Aが最も強いパターンであり、Dが最も弱いパターン。
A. カプ・テテフGX
B. ゾロアorメタモン◇
C. その他のポケモン
D. ポケモン無し
それぞれのパターンについて、自分の経験から勝率を考える。問題を分かりやすくするため、今回は仮に以下の表のとおりとする。
パターン | カプ・テテフGX | ゾロアorメタモン◇ | その他のポケモン | ポケモン無し |
勝率 | 80% | 60% | 40% | 20% |
次はそれぞれのパターンについて、ネストボールを先に使った場合とスーパーボールを先に使った場合での発生率を考える。
盤面に見えていないカードは52枚、カプ・テテフGXは2枚、ゾロアorメタモン◇は4枚、その他のポケモンの枚数は9枚、ポケモン以外のカードは37枚なので、発生率は以下の計算式で求められる。
ネスト先の場合
ポケモン無しの確率
37/51 × 36/50 × 35/49 × 34/48 × 33/47 × 32/46 × 31/45 = 約8.89%
その他のポケモンのみの確率
46/51 × 45/50 × 44/49 × 43/48 × 42/47 × 41/46 × 40/45 – ポケモン無し率 = 約37.34%
ゾロアメタモン◇有りテテフ無しの確率
49/51 × 48/50 × 47/49 × 46/48 × 45/47 × 44/46 × 43/45 – ポケモン無し率 – その他ポケモン率 = 約27.96%
テテフ有りの確率
1 – ポケモン無し率 – その他ポケモン率 – ゾロアメタモン◇率 = 約25.80%
スーパー先の場合
ポケモン無しの確率
37/52 × 36/51 × 35/50 × 34/49 × 33/48 × 32/47 × 31/46 = 約7.70%
その他のポケモンのみの確率
46/52 × 45/51 × 44/50 × 43/49 × 42/48 × 41/47 × 40/46 – ポケモン無し率 = 約32.31%
ゾロアメタモン◇有りテテフ無しの確率
50/52 × 49/51 × 48/50 × 47/49 × 46/48 × 45/47 × 44/46 – その他ポケモン率 = 約34.65%
テテフ有りの確率
1 – ポケモン無し率 – その他ポケモン率 – ゾロアメタモン◇率 = 約25.34%
結論
まとめると以下の通り
パターン | カプ・テテフGX | ゾロアorメタモン◇ | その他のポケモン | ポケモン無し |
勝率 | 80% | 60% | 40% | 20% |
ネスト先 | 約25.80% | 約27.96% | 約37.34% | 約8.89% |
スーパー先 | 約25.34% | 約34.65% | 約32.31% | 約7.70% |
それぞれの発生率に勝率をかけたものが、そのプレイの勝率である。
計算するとネスト先の勝率は54.14%。
スーパー先の勝率は55.53%である。
テテフ有りの場合の勝率を80%という高い値に設定してもテテフに触れる確率の高いネスト先の方が勝率が低いという結果。
実際にはテテフ有りでもそこまで高い勝率にはならないので、ネストとスーパーの勝率の差はより大きくなると考えられる。
ネストでサイド落ちを確認するメリットもそこまで大きくなく、スーパーで当たったカードによってネストで持ってくるカードを変えることでスーパーの勝率がより大きくなる可能性があることも考えると、
「ネスト→スーパー」と「スーパー→ネスト」では「スーパー→ネスト」の方が優れている
と結論できる。
計算が複雑になりすぎるので今回は省略するが、ボールを温存するパターンも上記と同じように
「想定される状況の発生率×その状況における勝率」
でそのプレイの評価値を算出することができる。
パターン②の「ネストだけ使いスーパーを温存する」は特に有力だが、1ターン目にスーパーを使った場合と比べてグズマ等の引きやすさにどの程度の影響を与えるのかは計算で出せる。
実際の試合ではもちろんこんな計算をする時間はない。しかしプレイの際にこういったことを少しだけ意識すること、あるいは対戦終了後に計算をしてみることは、より正しい選択をする手助けになるだろう。
こうした細かい努力の積み重ねが、大事な場面でのあと1勝、あと1枚の差を埋めることに繋がっている。